RSウイルス感染症は、特に乳幼児にとって注意が必要な呼吸器感染症です。多くの大人や年長児では軽い風邪症状で済むことが多いのですが、2歳未満の小さなお子さん、特に生後数か月の乳児では重篤な呼吸器症状を引き起こすことがあります。
毎年秋から冬にかけて流行し、保育所や病院などでの集団感染もしばしば問題となります。ほぼ全ての子どもが2歳までに一度は感染するとされており、非常に身近な感染症でありながら、時として入院治療が必要になることもある厄介な病気です。この記事では、RSウイルス感染症の特徴、症状、治療について詳しく解説し、当院での対応についてもご紹介します。
RSウイルス感染症とは
ウイルスの特徴と感染力
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、その名前が示すように呼吸器に感染するウイルスです。非常に感染力が強く、家族内での感染率は非常に高いことが知られています。このウイルスは環境中でも数時間生存することができ、手や物を介した接触感染も起こりやすい特徴があります。
一度感染しても終生免疫は得られないため、何度も感染を繰り返すことがあります。ただし、再感染の場合は初回感染より症状が軽くなることが一般的です。成人では軽い鼻かぜ程度の症状で済むことが多く、RSウイルス感染と気づかないまま乳幼児に感染させてしまうケースもよくみられます。
流行時期と感染経路
日本では例年9月頃から流行が始まり、11月から1月にかけてピークを迎えます。近年では流行時期が早まる傾向にあり、夏場から患者数が増加することもあります。
感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。感染者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込んだり、ウイルスが付着した手や物を触った後に口や鼻を触ったりすることで感染します。特に保育所などの集団生活の場では、おもちゃや手すりを介した感染が起こりやすくなります。
症状と経過について
年齢による症状の違い
RSウイルス感染症の症状は年齢によって大きく異なります。年長児や成人では軽い上気道炎症状(鼻水、咳、微熱)程度で済むことが多く、普通の風邪と区別がつかないことがほとんどです。
しかし、2歳未満の乳幼児、特に生後6か月未満の乳児では重篤な下気道炎を起こすリスクが高くなります。細気管支炎や肺炎を併発し、呼吸困難や哺乳困難を起こすことがあります。
乳幼児の典型的な症状
乳幼児のRSウイルス感染症は、通常鼻水と軽い咳から始まります。初期は普通の風邪と見分けがつきませんが、数日経過すると症状が悪化し、特徴的な症状が現れてきます。
最も注意すべき症状は呼吸の変化です。呼吸が早くなったり、胸がペコペコと凹んだり(陥没呼吸)、息を吐くときにゼーゼー、ヒューヒューという音が聞こえたりします。これらは細気管支炎の典型的な症状で、緊急性が高い状態です。
また、哺乳量の減少も重要なサインです。いつもより母乳やミルクを飲む量が少なくなったり、飲んでいる途中で苦しそうになったりする場合は、呼吸困難により哺乳が困難になっている可能性があります。
重症化のリスク因子
特に重症化しやすいのは、早産児、慢性肺疾患のあるお子さん、先天性心疾患のあるお子さん、免疫不全のあるお子さんです。これらのハイリスク児では、より軽微な症状でも注意深い観察が必要です。
生後3か月未満の乳児も重症化のリスクが高く、無呼吸発作を起こすことがあります。また、喫煙家庭の乳幼児も重症化しやすいことが知られています。
診断と検査について
臨床診断
RSウイルス感染症の診断は、主に症状の特徴と流行時期を考慮した臨床診断によって行われます。特に乳幼児で細気管支炎の症状がみられ、RSウイルスの流行時期である場合は、RSウイルス感染症を強く疑います。
当クリニックでは、お子さんの月齢、症状の経過、呼吸状態などを詳しく観察し、総合的に判断いたします。家族の風邪症状についても重要な情報となるため、詳しくお聞きします。
迅速診断検査
RSウイルスの迅速診断キットが利用可能で、鼻汁から検体を採取して約15分で結果が判明します。ただし、この検査は1歳未満の乳児でのみ保険適用となります。
検査の感度には限界があるため、陰性であってもRSウイルス感染症を否定することはできません。臨床症状と合わせて総合的に判断することが重要です。
その他の検査
重症例では血液検査で炎症反応や酸素化の状態を確認したり、胸部レントゲン検査で肺炎の有無を調べたりすることがあります。呼吸状態の評価のため、酸素飽和度の測定も重要な検査です。
治療方法について
対症療法が中心
RSウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在しないため、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。軽症例では自宅での安静と水分補給で十分なことが多くあります。
発熱に対してはアセトアミノフェンなどの解熱薬を使用し、鼻づまりに対しては鼻汁の吸引や生理食塩水による鼻洗浄が効果的です。咳に対する咳止め薬は、痰の排出を妨げる可能性があるため、一般的には推奨されません。
呼吸管理と酸素療法
呼吸困難がある場合は、酸素投与が必要になることがあります。軽度の酸素化不良であれば鼻カニューレによる酸素投与で改善することが多いですが、重症例では人工呼吸管理が必要になることもあります。
気管支拡張薬の吸入治療が行われることもありますが、効果は限定的とされています。ステロイド薬についても、一般的には推奨されていません。
栄養・水分管理
哺乳困難により脱水や栄養不良を起こしやすいため、適切な水分・栄養管理が重要です。経口摂取が困難な場合は、点滴による水分補給や経鼻胃管による栄養補給が必要になることもあります。
予防と感染対策
基本的な感染予防策

RSウイルス感染症の予防には、手洗いとうがいの励行が最も重要です。特に乳幼児のお世話をする前後は、石鹸と流水による丁寧な手洗いを心がけましょう。
アルコール系の手指消毒薬も効果的ですが、流水による手洗いの方がより確実です。また、咳エチケットの実践も感染拡大防止に重要です。
環境整備と接触制限
RSウイルスは環境中でも生存するため、おもちゃやドアノブ、手すりなどの清拭消毒を定期的に行いましょう。特に乳幼児がいる家庭では、家族が風邪症状を示している場合の接触には注意が必要です。
可能であれば、症状のある家族は乳幼児との直接接触を避け、マスクの着用を心がけることが推奨されます。兄弟姉妹間での感染も多いため、保育所での感染状況にも注意を払いましょう。
ハイリスク児への特別な配慮
早産児や慢性疾患のあるお子さんには、RSウイルス感染予防のためのモノクローナル抗体製剤(パリビズマブ)の投与が考慮されることがあります。これは治療薬ではなく予防薬で、RSウイルス流行期に月1回筋肉注射を行います。
当院での対応
診断と重症度評価
当院では、RSウイルス感染症が疑われるお子さんに対して、迅速診断検査を含む適切な検査を実施いたします。特に呼吸状態の評価に重点を置き、重症度を適切に判断いたします。
酸素飽和度の測定や、呼吸数、呼吸パターンの観察により、入院治療の必要性について慎重に判断いたします。保護者の方には、自宅での観察ポイントについても詳しくご説明します。
治療とサポート
軽症例では自宅療養のための具体的な指導を行い、症状悪化時の対応についてもお伝えします。鼻汁吸引の方法や、水分摂取のコツなど、実践的なアドバイスを提供いたします。
重症例や重症化のリスクが高い場合は、適切な医療機関への紹介や入院手配を迅速に行います。患者さんとご家族の安全を最優先に考えた医療を提供いたします。
感染対策指導
家族内感染の防止や、保育所復帰のタイミングについて具体的にご指導いたします。特に兄弟姉妹がいる場合の注意点や、ハイリスク児がいる家庭での特別な配慮についてもお話しします。
まとめ

RSウイルス感染症は、乳幼児にとって注意すべき感染症です。年長児や成人では軽症で済むことが多いですが、小さなお子さんでは重篤な呼吸器症状を起こす可能性があります。
呼吸が苦しそうな様子、哺乳量の減少、発熱などの症状がみられた場合は、早めに当院にご相談ください。当院では、RSウイルス感染症の診断から治療、重症度評価まで総合的にサポートいたします。お子さんの健康と安全を守るため、いつでもお気軽にご相談ください。