「マイコプラズマ」という名前を耳にしたことがある方は多いかもしれませんが、実際にどのような病気なのかご存知でしょうか。マイコプラズマ感染症は、細菌でもウイルスでもない特殊な病原体によって引き起こされる呼吸器感染症で、しつこい咳が長期間続くことが大きな特徴です。
学校や職場など人が集まる場所での集団感染も多く、「歩く肺炎」とも呼ばれるように、比較的軽症でありながら治療が長引くことがあります。この記事では、マイコプラズマ感染症の原因、症状、診断方法、治療について詳しく解説し、当クリニックでの対応についてもご紹介します。
マイコプラズマ感染症とは
病原体の特徴
マイコプラズマ感染症は、マイコプラズマ・ニューモニエという病原体によって引き起こされます。この病原体は、通常の細菌とウイルスの中間的な性質を持つ特殊な微生物で、細胞壁を持たないため、一般的な抗生物質が効きにくいという特徴があります。
マイコプラズマは非常に小さく、通常の顕微鏡では観察が困難です。また、培養にも時間がかかるため、診断には特別な検査方法が必要となることが多くあります。
流行の特徴と年齢分布
マイコプラズマ感染症は一年を通じて発生しますが、秋から冬にかけて患者数が増加する傾向があります。また、大きな流行は3年から4年ごとに周期的に起こることが知られており、流行年には通常の数倍の患者数が報告されます。
年齢別にみると、学童期から青年期にかけて最も多く発症し、特に5歳から15歳の年代での感染が目立ちます。幼児期の感染は比較的少ないものの、家族内感染により小さなお子さんがかかることもあります。成人でも感染は起こりますが、多くの場合、子どもから感染を受けることが多いとされています。
感染経路について
マイコプラズマ感染症の主な感染経路は飛沫感染です。感染者の咳やくしゃみによって飛び散った飛沫を吸い込むことで感染が成立します。潜伏期間が長く、症状が軽微な場合も多いため、知らないうちに感染を広げてしまうことがよくあります。
学校や職場などの閉鎖的な環境では、一人の感染者から多数の人に感染が広がることがあり、クラスター感染として問題となることもあります。家族内感染も頻繁にみられ、特に同居している家族間では高い感染率を示します。
症状と経過について
潜伏期間と初期症状
マイコプラズマ感染症の潜伏期間は、他の呼吸器感染症と比べて長く、通常2週間から3週間程度です。この長い潜伏期間のため、感染源の特定が困難な場合が多くあります。
初期症状として最も特徴的なのは、徐々に始まる乾いた咳です。最初は軽い咳から始まりますが、日を追うごとに咳の回数や強さが増していきます。発熱も初期からみられることが多く、37度から39度程度の熱が数日間続きます。
特徴的な咳の症状
マイコプラズマ感染症で最も印象的な症状は、長期間続く頑固な咳です。この咳は乾性咳嗽と呼ばれる痰の出ない乾いた咳で、特に夜間や早朝に激しくなる傾向があります。
咳は発症から数週間から数か月にわたって続くことがあり、日常生活に大きな支障をきたします。学校や職場での集中力低下、夜間の睡眠障害なども引き起こし、患者さんの生活の質を大きく低下させることがあります。
咳と共に胸痛を訴える方も多く、特に激しい咳の後に胸の痛みを感じることがあります。これは咳による胸部の筋肉疲労や、気管支の炎症による痛みと考えられています。
全身症状と合併症
発熱や咳以外にも、全身のだるさ、頭痛、のどの痛みなどの症状がみられます。食欲不振や体重減少を伴うこともあり、特に長期間症状が続く場合は注意が必要です。
マイコプラズマ感染症は「歩く肺炎」と呼ばれるように、肺炎を起こしていても比較的軽症で、日常生活を送ることができる場合が多いのが特徴です。しかし、まれに重篤な肺炎に進行することもあり、特に高齢者や免疫力の低下した方では注意深い観察が必要です。
呼吸器症状以外の合併症として、皮疹、関節痛、消化器症状などがみられることもあります。また、非常にまれですが、脳炎や髄膜炎などの中枢神経系の合併症を起こすこともあります。
診断方法について
臨床診断の重要性

マイコプラズマ感染症の診断は、症状の特徴と流行状況を考慮した臨床診断が重要な役割を果たします。長期間続く乾いた咳、比較的軽度の発熱、胸部レントゲンでの肺炎像などが診断の手がかりとなります。
当クリニックでは、患者さんの症状の経過を詳しくお聞きし、身体診察と合わせて総合的に判断いたします。特に咳の性状や持続期間、家族や職場での感染状況などは重要な情報となります。
検査方法について
マイコプラズマ感染症の確定診断には、血液検査による抗体検査や、のどや痰からのマイコプラズマ遺伝子検出検査が用いられます。抗体検査では、急性期と回復期の血清を比較して抗体価の上昇を確認しますが、診断確定まで時間がかかるという欠点があります。
近年では、迅速診断キットも開発され、短時間で診断が可能になっています。ただし、これらの検査にも限界があるため、症状や経過を総合的に判断することが重要です。
胸部レントゲン検査では、典型的には肺の下部に淡い影がみられることが多く、重症度の判定や他の肺炎との鑑別に役立ちます。血液検査では、白血球数の軽度増加や炎症反応の上昇がみられることがあります。
治療方法について
抗生物質による治療
マイコプラズマは細胞壁を持たないため、ペニシリン系やセフェム系などの一般的な抗生物質は効果がありません。治療には、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗生物質が使用されます。
第一選択薬としてはマクロライド系抗生物質が用いられることが多く、特に小児では安全性の高いエリスロマイシンやクラリスロマイシンが処方されます。ただし、近年マクロライド耐性のマイコプラズマが増加しており、治療効果が十分でない場合もあります。
抗生物質の投与期間は通常1週間から2週間程度ですが、症状の改善状況に応じて調整が必要な場合があります。適切な抗生物質治療により、多くの場合症状は改善しますが、咳だけは治療後も数週間続くことがあります。
対症療法について
咳に対しては、咳止め薬や気管支拡張薬が使用されることがあります。特に夜間の咳が強い場合は、睡眠の質を改善するために咳止め薬の使用を検討します。
発熱や頭痛に対しては、解熱鎮痛薬を適切に使用します。十分な水分摂取と安静も重要な治療の一部です。室内の湿度を適切に保つことで、咳の症状を和らげることができます。
治療効果の判定
適切な治療が開始されれば、通常2日から3日で発熱は改善し、全身状態も良くなります。しかし、咳の症状は治療開始後も数週間にわたって続くことが多く、これは正常な経過と考えられています。
治療効果が不十分な場合は、薬剤耐性の可能性を考慮して抗生物質の変更を検討します。また、他の呼吸器疾患との合併や、別の病原体による感染の可能性も考慮する必要があります。
予防と感染対策
基本的な予防策
マイコプラズマ感染症に対する特別なワクチンは存在しないため、予防は一般的な感染対策が中心となります。手洗いとうがいの励行、マスクの着用、咳エチケットの実践などが基本的な予防策です。
特に咳の症状がある方は、他の人への感染を防ぐためにマスクの着用を心がけることが重要です。また、症状がある間は可能な限り人との接触を避け、学校や職場への出席を控えることも感染拡大防止に役立ちます。
集団感染の予防
学校や職場などの集団生活の場では、一人の感染者から多数への感染拡大が起こりやすいため、早期の対策が重要です。感染者の早期発見と適切な治療、接触者の健康観察などが効果的な対策となります。
室内の換気を十分に行い、人との距離を保つことも感染リスクの軽減に役立ちます。また、体調不良時は無理をせず、早めに医療機関を受診することが重要です。
当院での対応
診断と検査

当院では、マイコプラズマ感染症が疑われる患者さんに対して、詳細な問診と身体診察を行います。症状の特徴や経過、周囲での感染状況などを総合的に評価し、必要に応じて迅速診断検査や血液検査を実施いたします。
胸部レントゲン検査により肺炎の有無や程度を確認し、重症度に応じた適切な治療方針を立てます。検査結果については、患者さんにわかりやすくご説明し、治療の必要性や期間についても詳しくお話しいたします。
治療とサポート
患者さんの年齢や症状の程度に応じて、最適な抗生物質による治療を行います。薬剤耐性の可能性も考慮しながら、効果的な治療薬を選択いたします。
治療期間中は定期的な経過観察を行い、症状の改善状況を確認いたします。咳が長期間続く場合の対処法や、日常生活での注意点についても具体的にアドバイスいたします。
感染対策の指導
家族内感染や職場での感染拡大を防ぐため、適切な感染対策についてご指導いたします。いつから学校や職場に復帰できるかについても、症状の改善状況を考慮して適切にお伝えします。
まとめ
マイコプラズマ感染症は、長期間続く咳が特徴的な呼吸器感染症です。比較的軽症でありながら、症状が長引くことが多く、日常生活への影響も大きい疾患です。適切な診断と治療により症状の改善は期待できますが、完全な回復までには時間がかかることもあります。
以下のような症状がある場合は、マイコプラズマ感染症の可能性を考慮して当院にご相談ください。
2週間以上続く乾いた咳、微熱が続いている状態、夜間に悪化する咳、家族や職場で同様の症状の方がいる場合、これらの症状がみられる時は、適切な診断と治療のために早めの受診をお勧めします。
当院では、マイコプラズマ感染症の診断から治療、感染対策まで総合的にサポートいたします。長引く咳でお困りの方や、感染症に関するご心配がございましたら、お気軽にご相談ください。患者さん一人ひとりの状態に合わせた丁寧な診療を心がけています。