ヘルパンギーナと聞くと、なじみのない病名に感じる方も多いかもしれません。しかし実際には、夏場に流行する代表的な感染症のひとつで、特に乳幼児や小さなお子さんがよくかかる病気です。のどの奥に水ぶくれができて高熱が出るという特徴的な症状を示すため、保護者の方にとっては心配になる疾患でもあります。
この記事では、ヘルパンギーナの原因、症状の特徴、治療方法、そして当クリニックでの対応について詳しくご説明します。お子さんの健康を守るためにも、正しい知識を身につけておきましょう。
ヘルパンギーナとは
ヘルパンギーナは、エンテロウイルス群に属するウイルスが原因となって発症する急性の感染症です。代表的な原因ウイルスには、コクサッキーウイルスA群やエンテロウイルスなどがあり、これらのウイルスが引き起こす咽頭炎の一種として位置づけられています。
流行の時期と特徴
ヘルパンギーナは主に夏季に流行することから「夏かぜ」の代表格とも呼ばれています。梅雨明けから夏休み期間にかけて患者数が急増し、特に保育所や幼稚園などの集団生活の場では感染が広がりやすい傾向があります。
年齢別にみると、生後6か月から5歳頃までのお子さんに多く発症しますが、中でも1歳から3歳の幼児期に集中してみられます。成人が感染することは稀ですが、家族内感染により大人にうつることもあり、その場合は子どもより重い症状を示すことがあります。
感染経路について
ヘルパンギーナの感染は、主に飛沫感染と接触感染によって起こります。感染者の咳やくしゃみ、会話の際に飛び散る飛沫を吸い込んだり、ウイルスが付着した手や物を介して口や鼻に入ったりすることで感染が成立します。
特に保育所などの集団生活では、おもちゃの共有や食事の際の接触を通じて感染が拡大しやすくなります。また、感染者は症状が治まった後も便中にウイルスを排出し続けるため、オムツ交換の際の注意も重要になります。
症状と経過について
潜伏期間と初期症状
ヘルパンギーナに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常3日から6日程度です。この期間中は無症状で過ごしますが、ウイルスは体内で増殖を続けています。
発症は突然始まることが多く、朝は元気だったお子さんが夕方になって急に高熱を出すといったケースがよくみられます。初期症状として最も特徴的なのは、38度から40度の高熱と強いのどの痛みです。
特徴的な口腔内の変化
ヘルパンギーナの最も特徴的な症状は、のどの奥、特に軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)の周辺に現れる小さな水疱です。これらの水疱は直径1ミリから2ミリ程度の大きさで、初めは透明な液体を含んでいますが、やがて破れて浅い潰瘍となります。
水疱が破れた後の潰瘍は白っぽい膜で覆われ、その周囲は赤く腫れた状態になります。この潰瘍が非常に痛むため、お子さんは飲み物を飲むことや食事を摂ることを嫌がるようになります。よだれが増えたり、機嫌が悪くなったりするのも、この痛みが原因です。
全身症状と合併症
高熱に伴い、お子さんは全身のだるさや食欲不振を訴えます。のどの痛みが強いため、水分や食事の摂取が困難になり、脱水症状を起こすリスクもあります。特に小さなお子さんの場合、水分摂取量の減少には注意深い観察が必要です。
多くの場合、ヘルパンギーナは3日から5日程度で自然に回復しますが、まれに髄膜炎や心筋炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。高熱が続く、強い頭痛や嘔吐がある、意識がもうろうとしているなどの症状がみられた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
診断と検査について
臨床診断の重要性
ヘルパンギーナの診断は、主に症状の特徴と流行時期を考慮した臨床診断によって行われます。のどの奥にできる特徴的な水疱や潰瘍の所見と、夏季の流行期間中であることが診断の重要な手がかりとなります。
当クリニックでは、お子さんの年齢、症状の経過、口腔内の所見を総合的に判断して診断を行います。口の中を観察する際は、お子さんが嫌がることもありますが、適切な診断のために必要な検査です。
他の疾患との鑑別
ヘルパンギーナと似たような症状を示す疾患として、手足口病やヘルペス性歯肉口内炎などがあります。手足口病では口腔内だけでなく手や足にも発疹が現れますし、ヘルペス性歯肉口内炎では歯茎の腫れや出血がより顕著にみられます。
これらの疾患との鑑別は、症状の分布や経過の違いによって行われます。正確な診断により、適切な治療方針を立てることができます。
治療方法について
対症療法が中心
ヘルパンギーナはウイルス感染症であるため、ウイルスそのものに対する特効薬は存在しません。治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。
高熱に対しては、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬を使用して熱を下げ、同時にのどの痛みも軽減させます。薬の使用量や回数については、お子さんの年齢や体重に応じて適切に調整する必要があります。
水分補給と栄養管理

のどの痛みにより水分や食事の摂取が困難になるため、脱水症状の予防が重要な治療目標となります。冷たい飲み物やゼリー状の食品は、のどの痛みを和らげながら水分補給ができるため推奨されます。
アイスクリームやプリンなど、のどごしの良い食品も痛みを軽減する効果があります。逆に、酸っぱいものや辛いもの、熱い食品は潰瘍部分を刺激するため避けるべきです。
口腔内のケア
口腔内の潰瘍に対しては、うがいや口腔用の軟膏などで痛みを和らげることがあります。ただし、小さなお子さんの場合はうがいが困難なため、こまめな水分摂取で口の中を清潔に保つことが大切です。
予防と感染対策
基本的な感染予防策
ヘルパンギーナの予防には、一般的な感染症対策が有効です。手洗いとうがいの励行は最も基本的で重要な予防策です。特に外出後や食事前、排便後の手洗いは徹底して行いましょう。
集団生活の場では、おもちゃや食器の共有を避け、定期的な消毒を行うことも感染拡大の防止に役立ちます。また、感染者が使用したタオルや衣類は分けて洗濯することも重要です。
家庭内での注意点
家族の中に感染者がいる場合は、家庭内での二次感染を防ぐための対策が必要です。感染したお子さんのお世話をする際は、マスクの着用と手洗いを徹底し、可能な限り他の家族との接触を制限します。
便中にウイルスが排出される期間が長いため、オムツ交換後の手洗いは特に重要です。また、症状が治まった後も数週間はウイルスの排出が続くことがあるため、注意深い観察が必要です。
当院での対応
診察と診断

当院では、ヘルパンギーナが疑われるお子さんに対して、丁寧な問診と診察を行います。症状の経過や口腔内の所見を詳しく確認し、適切な診断を提供いたします。
診察の際は、お子さんがリラックスできる環境づくりに配慮し、保護者の方にも症状の特徴や経過について詳しくご説明いたします。
治療とサポート
症状に応じた適切な薬物療法の提案と、家庭での対処法について具体的なアドバイスを行います。特に水分摂取や食事について、お子さんの年齢や症状に合わせた実践的な指導を心がけています。
また、合併症の兆候について詳しくご説明し、どのような症状がみられた場合に再受診が必要かを明確にお伝えします。
感染対策の指導
家庭内や集団生活での感染拡大を防ぐため、具体的な感染対策についてもご指導いたします。兄弟姉妹への感染予防や、保育所への復帰時期についても適切なアドバイスを提供します。
まとめ
ヘルパンギーナは夏季に流行する代表的な小児感染症です。特効薬はありませんが、適切な対症療法により症状を和らげることができます。最も重要なのは脱水症状の予防と、合併症の早期発見です。
お子さんに高熱やのどの痛み、口腔内の水疱などの症状がみられた場合は、早めに当院にご相談ください。また、以下のような症状がある場合は特に迅速な受診をお勧めします。
高熱が続いている場合、水分が全く摂取できない状態、強い頭痛や嘔吐がある場合、意識がもうろうとしている場合、これらの症状がみられた時は、お子さんの安全のために速やかにお越しください。当院では、ヘルパンギーナをはじめとする小児感染症に対して、お子さんと保護者の方両方に配慮した診療を心がけています。病気に関する不安やご質問がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。