脳出血は、脳内の血管が破れて出血することで脳組織が損傷を受ける重篤な疾患です。脳梗塞と並んで脳卒中の主要な病型の一つで、突然発症し、生命に関わることも多い緊急性の高い病気です。日本人に比較的多い疾患として知られており、高血圧との関連が特に強いことが特徴です。
発症すると意識障害や運動麻痺などの重篤な症状が現れることが多く、救命できても重い後遺症が残る可能性があります。しかし、最大の原因である高血圧を適切に管理することで、発症リスクを大幅に減らすことができる予防可能な疾患でもあります。この記事では、脳出血の原因、症状、診断方法、治療について詳しく解説し、当クリニックでの対応についてもご紹介します。
脳出血とは
発症のメカニズム
脳出血は、脳内の動脈が破綻することで脳実質内に血液が流出し、血腫を形成する疾患です。出血により脳組織が直接的に破壊されるとともに、血腫による圧迫効果で周囲の正常な脳組織も機能を失います。
出血が続くと血腫が拡大し、脳圧が上昇して脳ヘルニアと言われる生命に関わる状態となります。また、出血により脳浮腫も生じ、さらに脳圧上昇を助長します。これらの病態により、脳梗塞よりも急激で重篤な症状を呈することが多くなります。
出血部位による分類
脳出血は出血部位により、被殻出血、視床出血、脳幹出血、小脳出血、皮質下出血に分類されます。最も頻度が高いのは被殻出血で、全体の約40%を占めます。
出血部位により症状や予後が大きく異なります。脳幹出血は最も重篤で、呼吸中枢や意識中枢の障害により生命予後が悪くなります。小脳出血では激しいめまいや歩行障害が主症状となります。
原因と危険因子
脳出血の最大の原因は高血圧で、全体の約70%を占めます。長期間の高血圧により脳内の細小動脈に動脈硬化が進行し、血管壁が脆弱化することで破綻しやすくなります。
その他の原因として、脳動静脈奇形、脳動脈瘤、血管アミロイド症、抗凝固薬の使用などがあります。若年者の脳出血では、先天性血管異常や薬物使用が原因となることもあります。
症状について
急性期の症状
脳出血は突然発症し、多くの場合、激しい頭痛で始まります。「今まで経験したことのない頭痛」「ハンマーで殴られたような痛み」と表現される突発性の激痛が特徴的です。また他の症状としては、半身麻痺やしゃべりにくい、しびれ、嘔気、めまいなどの症状を認めることもあります。
頭痛に続いて、急速に意識障害が進行します。軽度の意識低下から昏睡状態まで様々な程度を示し、出血量や部位により重症度が決まります。また、吐き気や嘔吐も高頻度にみられる症状です。←削除で
局所神経症状
出血部位に応じた特徴的な神経症状が現れます。被殻出血では対側の片麻痺と感覚障害、同名半盲が典型的な症状です。視床出血では感覚障害が強く、特異な眼球運動異常がみられることもあります。
小脳出血では歩行失調や起立不能が主症状となり、脳幹出血では意識障害、呼吸障害、瞳孔異常などの重篤な症状が現れます。これらの症状は時間とともに進行することが多く、注意深い観察が必要です。
症状の進行パターン
脳出血の症状は発症から数時間にわたって進行することが特徴です。最初は軽微な症状でも、出血が続くことで血腫が拡大し、症状が急速に悪化することがあります。
特に発症から6時間以内は血腫拡大のリスクが高く、この時期の厳重な管理が重要です。症状の進行速度は出血の勢いや部位により異なりますが、常に悪化の可能性を念頭に置いた対応が必要です。
診断について
画像診断の重要性
脳出血の診断には、CT検査が最も有用です。出血は発症直後からCTで高吸収域として明瞭に描出され、出血量や部位、血腫の形状を正確に把握できます。
MRI検査では、より詳細な情報が得られ、特に微小出血や血管異常の検出に優れています。MRA(MR血管撮影)により、血管奇形や動脈瘤などの出血原因を調べることも重要です。
重症度評価
CT検査により出血量を測定し、重症度を評価します。血腫体積が30mL以上の場合は重症とされ、手術適応の判断材料となります。また、脳室穿破の有無も予後に大きく影響します。
意識レベルの評価にはGCS(Glasgow Coma Scale)が用いられ、治療方針や予後予測に重要な指標となります。
原因検索
高血圧性脳出血が最も多いものの、特に若年者では血管異常の検索が重要です。CTAやMRA、場合によっては脳血管撮影により、動静脈奇形や動脈瘤の有無を確認します。
血液検査では凝固能の評価も重要で、抗凝固薬の使用や血液疾患による出血の可能性も検討します。
治療について
急性期の内科的治療
脳出血の急性期治療は、血圧管理が最も重要です。過度の高血圧は再出血のリスクを高める一方、急激な降圧は脳血流を悪化させるため、慎重な血圧コントロールが必要です。
脳圧上昇に対しては、マンニトールやグリセオールなどの浸透圧利尿薬を使用します。また、脳浮腫の軽減を目的としてステロイド薬が投与されることもあります。
外科的治療
血腫が大きく、意識障害が進行している場合は、外科的血腫除去術が検討されます。開頭血腫除去術や、より低侵襲な内視鏡下血腫除去術などの方法があります。
小脳出血では、血腫による脳幹圧迫により急速に生命予後が悪化するため、緊急手術の適応となることが多くあります。また、脳室穿破を伴う場合は、脳室ドレナージが必要になることもあります。
全身管理
急性期には呼吸管理、循環管理が重要です。意識障害が強い場合は気道確保や人工呼吸管理が必要になることもあります。
また、誤嚥性肺炎の予防、深部静脈血栓症の予防、褥瘡の予防など、合併症対策も重要な治療の一部です。
リハビリテーション
急性期を過ぎて病状が安定すれば、機能回復を目指したリハビリテーションを開始します。理学療法、作業療法、言語療法を組み合わせ、残存機能を最大限に活用した機能訓練を行います。
早期からのリハビリテーション開始により、機能回復の促進と合併症の予防が期待できます。
予防について
高血圧の管理

脳出血の予防で最も重要なのは、高血圧の適切な管理です。血圧を140/90mmHg未満(できれば130/80mmHg未満)にコントロールすることで、脳出血のリスクを大幅に減少させることができます。
降圧薬の適切な使用とともに、塩分制限、減量、適度な運動などの生活習慣改善も重要です。自宅での定期的な血圧測定により、血圧の変動を把握することも大切です。
その他の危険因子の管理
喫煙は脳出血のリスクを増加させるため、禁煙が重要です。過度の飲酒も血圧上昇や血管損傷の原因となるため、適量を心がけます。
糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病も血管損傷の原因となるため、これらの疾患の適切な管理も必要です。
薬物使用への注意
抗凝固薬や抗血小板薬を使用している場合は、出血リスクとの兼ね合いを慎重に評価する必要があります。定期的な血液検査により、薬効と安全性を確認します。
また、違法薬物の使用は脳出血の重要な原因となるため、絶対に避けるべきです。
当院での対応
高血圧管理と予防
当院では、脳出血の最大の危険因子である高血圧の総合的な管理を行います。個々の患者さんの状態に応じた降圧目標を設定し、適切な薬物療法と生活指導を提供いたします。
家庭血圧測定の指導により、白衣高血圧や仮面高血圧の発見にも努めています。また、血圧手帳を活用した自己管理をサポートいたします。
定期的な評価と管理
定期的な診察により、血圧コントロール状況を評価し、必要に応じて治療方針を調整いたします。また、他の生活習慣病の有無も確認し、総合的な血管リスク管理を行います。
頭部CT・MRIや頸動脈エコー検査により、血管の状態を定期的に評価し、リスク層別化を行うことも可能です。
緊急時対応と連携
脳出血が疑われる症状が現れた場合は、迅速な初期評価を行い、専門医療機関への緊急搬送を手配いたします。患者さんとご家族には、緊急時の症状や対応方法について詳しくご説明いたします。
また、既に脳出血の既往がある患者さんの継続的な管理も行い、再発予防に努めます。
生活指導とサポート
個々の患者さんのライフスタイルに合わせた実践的な生活指導を提供いたします。食事療法、運動療法、禁煙支援など、脳出血予防に効果的な取り組みを一緒に考えます。
ご家族への教育も重要で、血圧管理の重要性や緊急時の対応について、分かりやすくご説明いたします。
まとめ

脳出血は重篤な疾患ですが、適切な高血圧管理により予防可能な疾患です。定期的な血圧測定と適切な治療により、発症リスクを大幅に減らすことができます。
突然の激しい頭痛、意識障害、運動麻痺などの症状がみられた場合は、緊急性の高い状態です。また、高血圧や他の危険因子をお持ちの方は、定期的な管理のために当院にご相談ください。患者さんの健康維持と脳出血予防のため、総合的なサポートを提供いたします。早期の予防対策により、健康な生活を長く続けることができます。