慢性膵炎は、膵臓の慢性的な炎症により膵組織が徐々に破壊され、線維化が進行することで膵機能が不可逆的に低下する疾患です。長期間にわたって進行し、膵外分泌機能不全による消化不良や、膵内分泌機能不全による糖尿病を引き起こします。アルコール多飲が主な原因で、中年男性に多くみられる傾向があります。
症状は腹痛から始まることが多く、病気の進行とともに膵機能低下による症状が現れます。根治的治療は困難ですが、適切な症状管理と膵機能補充療法により、患者さんの生活の質を維持することが可能です。早期診断と継続的な管理が重要な疾患です。
慢性膵炎とは
疾患の特徴
慢性膵炎は、膵臓の持続的な炎症により膵実質の線維化と膵管の不規則な拡張・狭窄が生じる疾患です。急性膵炎とは異なり、一度生じた膵組織の破壊は不可逆的で、時間の経過とともに膵機能が徐々に低下していきます。
病理学的には、膵腺房の萎縮・消失、膵島の減少、間質の線維化、膵管壁の肥厚と膵管内結石の形成などが特徴的な所見として認められます。
病型分類
慢性膵炎は原因により、アルコール性、特発性、遺伝性、自己免疫性などに分類されます。日本ではアルコール性が約70%を占め、特発性が約20%、その他が約10%となっています。
また、病期により早期慢性膵炎、代償期慢性膵炎、非代償期慢性膵炎に分けられ、それぞれ症状や治療方針が異なります。
原因について
アルコール性慢性膵炎
日本における慢性膵炎の最も多い原因はアルコールで、長期間の大量飲酒により発症します。一般的に、1日平均80g以上のアルコールを10年以上継続摂取すると発症リスクが高まるとされています。
アルコールは膵液の蛋白濃度を上昇させ、膵管内に蛋白栓を形成します。これにより膵液の流出が障害され、膵管内圧の上昇と膵組織の線維化が進行します。
特発性慢性膵炎
明らかな原因が特定できない場合を特発性慢性膵炎と呼びます。日本では比較的頻度が高く、若年発症例や高齢発症例があります。遺伝的要因や環境因子の関与が推測されています。
遺伝性慢性膵炎
PRSS1、SPINK1、CFTRなどの遺伝子変異により発症する慢性膵炎で、若年から症状が現れることが多く、家族歴を認めます。膵癌の発症リスクが高いため、注意深い経過観察が必要です。
自己免疫性膵炎
自己免疫機序により膵臓に慢性炎症が生じるもので、ステロイド治療に反応することが特徴です。他の自己免疫疾患を合併することもあります。
症状について
腹痛

慢性膵炎の最も多い初発症状は腹痛で、約90%の患者さんにみられます。痛みは上腹部から背部にかけての持続性の鈍痛が特徴的で、食後に増強することが多くあります。
痛みの性質は急性膵炎ほど激烈ではありませんが、持続的で患者さんの生活の質を大きく低下させます。病気の進行とともに痛みは軽減する傾向がありますが、これは膵組織の破壊が進行したためです。
膵外分泌機能不全による症状
膵外分泌機能の低下により、脂肪やタンパク質の消化不良が生じます。特に脂肪の消化不良により、脂肪便(ステアトリア)が出現し、便は油様で悪臭を伴い、水に浮きます。
消化不良により栄養素の吸収が低下し、体重減少、栄養不良、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)欠乏症を来すことがあります。
膵内分泌機能不全による症状
膵島細胞の破壊により糖尿病が発症します。慢性膵炎による糖尿病は「膵性糖尿病」と呼ばれ、インスリン分泌の低下だけでなく、グルカゴン分泌も低下するため、低血糖を起こしやすいという特徴があります。
糖尿病症状として、口渇、多尿、体重減少などがみられ、適切な血糖管理が必要になります。
その他の症状
黄疸は膵頭部の炎症や線維化により総胆管が圧迫されることで生じます。また、門脈や脾静脈の圧迫により門脈圧亢進症を来すこともあります。
慢性的な腹痛や栄養不良により、うつ状態や不安障害を合併することもあります。
診断について
画像検査

慢性膵炎の診断には画像検査が重要な役割を果たします。腹部超音波検査では膵実質の高エコー化、膵管の不規則な拡張、膵石の存在などが観察されます。
CT検査では膵実質の萎縮、膵管拡張、膵石、石灰化などの特徴的な所見を詳細に評価できます。造影検査により膵実質の不均一な造影効果も確認されます。
MRCP検査
MRCPでは膵管の詳細な形態評価が可能で、膵管の不規則な拡張・狭窄、分枝膵管の描出不良などの所見が得られます。侵襲的なERCPと同等の情報が非侵襲的に得られるため、診断に有用です。
膵機能検査
膵外分泌機能の評価には、便中エラスターゼ測定、BT-PABA試験、PFD試験などがあります。これらの検査により膵外分泌機能の低下程度を定量的に評価できます。
膵内分泌機能の評価には、血糖値、HbA1c、インスリン分泌能(CPR等)の測定を行います。
慢性膵炎の治療
慢性膵炎の治療は、症状の改善、膵機能の維持、合併症の予防を目的として行われます。根本的な治癒は困難ですが、適切な治療により症状のコントロールと進行の抑制が期待できます。
生活指導
アルコール性慢性膵炎では、完全な禁酒が最も重要な治療です。飲酒を継続すると病気の進行が加速するため、厳格な禁酒が必要です。禁酒が困難な場合は、専門的なアルコール依存症治療やカウンセリングを受けることが推奨されます。 禁煙も重要な治療の一つです。喫煙は膵がんのリスクを高めるだけでなく、慢性膵炎の進行も促進することが知られています。
薬物療法
膵外分泌機能不全に対しては、膵酵素補充療法が行われます。食事とともに膵酵素製剤を服用することで、消化・吸収の改善を図ります。また、膵臓の炎症を改善する薬の内服も行います。
膵性糖尿病に対しては、インスリン投与や血糖降下薬の内服を行い、低血糖に注意しながら慎重な血糖管理を行います。疼痛に対しては段階的な薬物療法が行われます。軽度の痛みには非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが使用されます。中等度から高度の痛みには、麻薬系鎮痛薬が使用されることもあります。
内視鏡的治療、外科的治療
薬物療法で症状のコントロールが困難な場合や、膵液や胆汁の流れが悪い場合には、内視鏡的治療や外科的治療が検討されます。内視鏡的治療が一般的であり、膵管狭窄部の拡張やステント留置、膵石除去により、膵液の流れを改善し、症状の軽減を図ります。また、膵石に対しては体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が行われることもあります。
慢性膵炎の合併症と予後
慢性膵炎では様々な合併症が生じる可能性があり、定期的な観察が必要です。
膵がんのリスク
慢性膵炎患者さんは膵がんの発症リスクが一般人口に比べて高いことが知られています。特に長期間経過した症例や遺伝性膵炎では、リスクがさらに高くなります。そのため、定期的な画像検査による経過観察が重要で、新たな腫瘤性病変の出現や既存病変の変化に注意を払う必要があります。 また、慢性膵炎では炎症性の腫瘤と膵がんの鑑別が困難な場合があり、専門的な診断技術が必要になることもあります。症状の変化や検査値の推移に注意し、必要に応じて精密検査を行うことが重要です。
当院での慢性膵炎の診療
当院では、慢性膵炎の患者さんに対して包括的な診断と治療を提供しています。
継続的な病状管理
慢性膵炎は長期間にわたる継続的な管理が必要な疾患です。定期的な血液検査と画像検査により病状の変化を把握し、適切な治療調整を行います。症状日記の活用により、患者さん自身にも病状の変化を把握していただき、治療への積極的な参加を促しています。 膵機能の評価と栄養状態のチェックも定期的に行い、必要に応じて治療内容の見直しを行います。また、糖尿病を合併している場合は、血糖コントロールの状況を詳しく評価し、最適な治療方針を提案いたします。
生活指導と患者教育
禁酒指導を中心とした生活指導を継続的に行います。アルコール依存症が疑われる場合は、専門医療機関への紹介も行います。また、栄養指導により適切な食事療法を提案し、膵酵素製剤の適切な使用方法についても詳しく説明いたします。 患者さんやご家族に対する疾患教育も重視しており、病気の性質や治療の必要性について理解を深めていただくことで、より良い治療成果を目指しています。
当院では、慢性膵炎の診断から継続的な管理まで、患者さんの状態に応じた最適な医療を提供いたします。膵疾患についてご心配な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。