細菌性腸炎は、病原性細菌が腸管に感染することで起こる急性の胃腸炎で、激しい下痢、腹痛、発熱などの症状を引き起こします。食中毒の代表的な原因として知られており、汚染された食品や水の摂取により感染が成立します。夏季に多く発生する傾向があり、適切な治療により多くの場合は数日から1週間程度で改善します。
原因菌により症状の程度や経過が異なり、軽症から重篤な症状まで様々です。脱水症状を起こしやすく、特に小児や高齢者では注意深い管理が必要となります。早期診断と適切な治療により、症状の軽減と合併症の予防が可能な疾患です。
細菌性腸炎とは
疾患の特徴
細菌性腸炎は、サルモネラ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、赤痢菌などの病原性細菌が腸管に感染して起こる急性感染症です。これらの細菌は腸管粘膜に侵入したり、毒素を産生したりすることで炎症を引き起こします。
感染から発症までの潜伏期間は菌種により異なりますが、通常数時間から数日です。症状は急激に始まることが多く、激しい消化器症状が特徴的です。
主な原因菌
日本で最も頻度が高いのはカンピロバクター感染症で、鶏肉や牛肉などの食肉を介した感染が多くみられます。サルモネラ感染症は卵や鶏肉、乳製品が主な感染源となります。
腸管出血性大腸菌(O157など)は牛肉や生野菜から感染することが多く、重篤な合併症を起こす可能性があります。赤痢菌は海外旅行時の感染が多く、人から人への感染も起こります。
症状について
急性期の症状
細菌性腸炎の最も特徴的な症状は、突然始まる激しい下痢です。水様便から血便まで様々な性状を示し、1日に10回以上の頻回な下痢がみられることもあります。
腹痛も主要な症状で、下腹部を中心とした激しい痛みが持続します。痛みは間欠的に強くなったり弱くなったりを繰り返し、排便前後に特に強くなることが多くあります。
全身症状
多くの場合、38度以上の発熱を伴います。悪寒戦慄や全身倦怠感も強く、患者さんは重篤感を訴えることが多くあります。頭痛や筋肉痛などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。
激しい下痢と嘔吐により、急速に脱水症状が進行することがあります。口渇、尿量減少、皮膚の張りの低下などの脱水症状に注意が必要です。
菌種による症状の違い
カンピロバクター感染症では血便を伴うことが多く、腹痛が特に強い傾向があります。サルモネラ感染症では発熱と下痢が主体で、比較的軽症のことが多くあります。
腸管出血性大腸菌感染症では、初期は水様下痢ですが、数日後に血便が出現することが特徴的です。溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な合併症を起こすリスクがあります。
感染経路と原因について
食品媒介感染
細菌性腸炎の主な感染経路は、汚染された食品の摂取です。生肉や加熱不十分な肉類、生卵、乳製品、魚介類などが主な感染源となります。調理過程での交差汚染も重要な感染原因です。
夏季には食品の保存状態が悪化しやすく、細菌の増殖が促進されるため感染リスクが高まります。バーベキューやピクニックなどの野外での食事でも感染が起こりやすくなります。
水系感染
汚染された水や氷の摂取により感染することもあります。特に海外旅行時には、現地の水道水や氷、生野菜の摂取により感染するリスクがあります。
井戸水や湧水なども、適切な殺菌処理がされていない場合は感染源となる可能性があります。
接触感染
赤痢菌やサルモネラなどは、感染者との直接接触や汚染された物品を介した感染も起こります。手洗いが不十分な状態での食事準備や、感染者の排泄物処理後の不適切な手洗いが感染につながります。
診断について
問診と症状の評価
細菌性腸炎の診断は、詳細な問診から始まります。発症前の食事内容、海外渡航歴、周囲での同様症状の発生状況などを詳しく確認します。
症状の性状(下痢の回数や便の性状、血便の有無、発熱の程度など)と経過を詳しく聞き取ることで、原因菌の推定や重症度の評価を行います。
身体診察
腹部の診察により、圧痛の部位や程度、腸音の変化などを確認します。脱水の程度を評価するため、皮膚の張り、粘膜の湿潤状態、血圧、脈拍なども詳しく観察します。
発熱の程度や全身状態も重要な評価項目で、重症度判定や治療方針の決定に役立ちます。
検査
便培養検査により原因菌の同定を行いますが、結果が判明するまでに数日かかるため、初期治療は症状に基づいて開始されます。便の性状や白血球の有無により、細菌性腸炎の可能性を評価できます。
血液検査では、白血球数の増加や炎症反応の上昇、脱水による血液濃縮などの所見がみられます。重症例では電解質異常や腎機能障害の評価も重要です。
治療について
脱水の補正

細菌性腸炎の治療で最も重要なのは、脱水の補正と電解質バランスの維持です。軽症例では経口補水液による水分補給を行い、重症例では点滴による静脈内補液が必要になります。
脱水の程度に応じて補液量を調整し、電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを適切に保ちます。特に高齢者や小児では脱水の進行が早いため、注意深い管理が必要です。
対症療法
下痢に対する止痢薬の使用は、一般的には推奨されません。これは、病原菌の排出を妨げ、感染の遷延や毒素の蓄積を招く可能性があるためです。
発熱や腹痛に対しては、解熱鎮痛薬を適切に使用し、患者さんの苦痛を軽減します。吐き気が強い場合は制吐薬を使用することもあります。
抗生物質治療
抗生物質の使用は、菌種や重症度により慎重に判断されます。軽症のサルモネラ感染症では抗生物質は使用せず、対症療法のみで経過観察することが多くあります。
カンピロバクター感染症や赤痢では、適切な抗生物質により症状の短縮と感染期間の短縮が期待できます。腸管出血性大腸菌感染症では、抗生物質が毒素産生を増加させる可能性があるため、使用する場合には、臨床症状を見ながら適格な投与を行います。
食事療法
急性期には消化の良い食品から段階的に摂取を開始します。最初は水分や電解質の補給を優先し、症状の改善に合わせて流動食から常食へと進めていきます。
乳製品や脂肪分の多い食品、香辛料などの刺激物は症状を悪化させる可能性があるため、回復期まで避けることが推奨されます。
合併症について
細菌性腸炎の重篤な合併症として、腸管出血性大腸菌感染症による溶血性尿毒症症候群(HUS)があります。腎機能障害、血小板減少、溶血性貧血を特徴とし、特に小児で発症しやすくなります。
敗血症や脱水による腎不全、電解質異常による不整脈なども起こりうる合併症で、重症例では集中的な治療が必要になることもあります。
予防について
食品の安全な取り扱い
細菌性腸炎の予防で最も重要なのは、食品の安全な取り扱いです。肉類は中心部まで十分に加熱し、75度で1分間以上の加熱を心がけます。
生肉と他の食品の交差汚染を防ぐため、調理器具や まな板を使い分けることも重要です。調理前後の手洗いを徹底し、食品は適切な温度で保存します。
水と氷の安全性
特に海外旅行時には、水道水や氷の摂取を避け、市販のボトル水を使用することが推奨されます。生野菜や果物も現地の水で洗われている可能性があるため注意が必要です。
手洗いの徹底
食事前、調理前、排便後の手洗いを石鹸と流水で30秒以上行うことが感染予防の基本です。アルコール系手指消毒薬も効果的ですが、手洗いの代替とはなりません。
当院での対応
迅速な診断と治療

当院では、細菌性腸炎が疑われる患者さんに対して、詳細な問診と身体診察により迅速な診断を行います。症状の程度や脱水の評価を適切に行い、必要な治療を速やかに開始いたします。
便培養検査や血液検査により、原因菌の特定と重症度の評価を行います。結果に基づいて治療方針を調整し、最適な治療を提供いたします。
脱水管理と全身状態の評価
脱水症状の程度を適切に評価し、経口補水療法や点滴治療により水分・電解質バランスを維持します。特に高齢者や小児では、より注意深い観察と管理を行います。
症状の経過を定期的に確認し、改善が不十分な場合や合併症が疑われる場合は、適切な専門医療機関への紹介も行います。
感染対策と予防指導
患者さんとご家族に対して、家庭内での感染拡大防止策について詳しくご説明いたします。適切な手洗い方法、排泄物の処理方法、食品の安全な取り扱いについて実践的なアドバイスを提供いたします。
回復後の食事再開についても、段階的な進め方や注意点について詳しくご指導いたします。
まとめ
細菌性腸炎は適切な治療により多くの場合は数日で改善する疾患ですが、脱水や合併症のリスクもあるため注意が必要です。食品の安全な取り扱いと手洗いの徹底により予防が可能です。激しい下痢、腹痛、発熱などの症状がある場合、特に汚染が疑われる食品摂取後にこれらの症状が現れた場合は、早めに当院にご相談ください。当院では、細菌性腸炎の診断から治療、感染対策まで総合的にサポートいたします。