自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎は、自分の免疫系が誤って肝細胞を攻撃することで起こる慢性肝疾患です。本来は外敵から身体を守るはずの免疫システムが、何らかの原因で肝臓を異物として認識し、持続的な炎症を引き起こします。比較的稀な疾患ですが、適切な診断と治療により病気の進行を抑制し、良好な予後が期待できます。

中年女性に多くみられる傾向があり、症状は軽微なものから重篤なものまで様々です。早期診断と免疫抑制治療により、多くの患者さんで症状の改善と肝機能の正常化が可能となっています。

自己免疫性肝炎とは

疾患の特徴

自己免疫性肝炎は、免疫系の異常により肝細胞に対する自己抗体が産生され、慢性的な肝炎が引き起こされる疾患です。炎症が持続することで肝線維化が進行し、放置すると肝硬変に至る可能性があります。

発症には遺伝的素因と環境因子の両方が関与すると考えられており、特定のHLA(ヒト白血球抗原)型を持つ人に発症しやすいことが知られています。また、ウイルス感染や薬剤などが誘因となって発症することもあります。

病型分類

自己免疫性肝炎は、検出される自己抗体の種類により1型と2型に分類されます。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性となり、成人女性に多くみられます。2型は抗LKM-1抗体が陽性となり、小児や若年者に多い傾向があります。

日本では1型が約90%を占め、2型は稀です。病型により治療反応性や予後が若干異なることがあるため、正確な分類が重要です。

症状について

初期症状

自己免疫性肝炎の初期症状は非特異的で、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振などがみられます。

これらの症状は他の肝疾患や一般的な体調不良と区別がつきにくく、診断が遅れることも少なくありません。

一部の患者さんでは関節痛や筋肉痛を訴えることもあり、リウマチ性疾患と間違われることもあります。また、皮疹や発熱を伴う場合もあります。

進行期の症状

病気が進行すると、より明確な肝疾患の症状が現れます。黄疸(皮膚や白眼の黄変)、腹部膨満感、右上腹部の不快感などがみられるようになります。

さらに進行すると、手掌紅斑(手のひらの赤み)、クモ状血管腫(胸部や肩の赤い斑点)、女性化乳房などの慢性肝疾患に特徴的な症状が出現します。

急性発症例

稀に急性肝炎様の症状で発症することがあり、この場合は黄疸、発熱、強い全身倦怠感などの症状が急激に現れます。劇症肝炎に至ることもあり、緊急の治療が必要になる場合があります。

無症状例

健康診断での肝機能異常により偶然発見される無症状の患者さんも多くいます。症状がないからといって病気が軽いわけではなく、適切な治療が必要です。

原因について

遺伝的要因

自己免疫性肝炎の発症には遺伝的素因が強く関与しています。特定のHLA型(DR3、DR4など)を持つ人に発症しやすいことが知られており、家族内発症の報告もあります。

ただし、遺伝的素因があっても必ず発症するわけではなく、環境因子との相互作用により発病すると考えられています。

環境因子

ウイルス感染(A型肝炎、EBウイルス、サイトメガロウイルス等)が引き金となって発症することがあります。また、薬剤(抗生物質、解熱鎮痛薬等)や化学物質への暴露も誘因となる可能性があります。

これらの外的因子により免疫系が活性化され、分子模擬(molecular mimicry)という現象により自己の肝細胞に対する免疫反応が生じると考えられています。

ホルモンの影響

女性に多く発症することから、女性ホルモンの関与も示唆されています。妊娠、出産、更年期などのホルモン変動時に発症や増悪がみられることがあります。

診断について

血液検査

自己免疫性肝炎の診断には、肝機能検査と自己抗体の検査が重要です。ALT、ASTの上昇に加えて、総蛋白やγグロブリンの増加がみられることが特徴的です。

自己抗体では、抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗LKM-1抗体、抗LC-1抗体などが検索されます。これらの抗体の種類と力価により病型の分類と活動性の評価を行います。

免疫グロブリン

血清IgGの著明な上昇が特徴的で、しばしば正常値の1.5倍以上に増加します。IgGの上昇程度は疾患活動性と相関することが多く、治療効果の判定にも用いられます。

組織学的検査

確定診断には肝生検による組織学的検査が重要です。門脈域を中心とした慢性炎症、形質細胞浸潤、肝細胞の壊死などの特徴的な所見がみられます。

界面性肝炎(interface hepatitis)と呼ばれる肝細胞と門脈域の境界部の炎症所見は、自己免疫性肝炎に特徴的な所見です。

診断基準

国際的な診断基準では、臨床症状、血液検査所見、組織所見を総合的に評価してスコア化し、確実例、可能性例に分類されます。治療反応性も診断の参考となります。

治療について

免疫抑制療法

自己免疫性肝炎の標準治療は、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)による免疫抑制療法です。初期治療では比較的高用量から開始し、肝機能の改善に伴って徐々に減量していきます。

治療開始後、多くの患者さんで肝機能の改善がみられ、症状も軽快します。完全寛解(肝機能正常化と組織学的改善)を目指して治療を継続します。

維持療法

寛解達成後は、再燃防止のため低用量のステロイドによる維持療法を長期間継続します。維持量は個々の患者さんの状態に応じて調整されますが、通常プレドニゾロン5-10mg/日程度です。

ステロイドの長期使用による副作用(骨粗鬆症、糖尿病、感染症等)に注意しながら治療を継続する必要があります。

併用療法

ステロイドの副作用軽減や効果増強を目的として、免疫抑制薬(アザチオプリン等)を併用することもあります。特に若年者や長期治療が必要な患者さんでは、併用療法により良好な結果が得られることが多くあります。

難治例への対応

ステロイド治療に反応しない場合や副作用により継続困難な場合は、他の免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス等)の使用を検討します。

予後について

治療反応と寛解

適切な治療により、約80-90%の患者さんで寛解が得られます。治療反応は比較的良好で、多くの場合治療開始から数か月以内に肝機能の改善がみられます。

完全寛解に至った患者さんの予後は良好で、正常に近い生活を送ることが可能です。ただし、寛解後も定期的な経過観察と維持療法の継続が必要です。

再燃のリスク

治療中断により高率に再燃するため、自己判断での治療中止は避けるべきです。再燃時には肝機能の急激な悪化や、場合によっては劇症化することもあります。

長期予後

適切な治療により、肝硬変への進行を防ぐことができます。しかし、診断時に既に肝硬変に進行している場合は、肝癌の発症リスクがあるため、定期的なスクリーニングが必要です。

生活上の注意点

服薬管理

ステロイドの服薬は医師の指示通りに継続することが重要です。自己判断での減量や中止は再燃のリスクを高めるため、必ず医師と相談して調整します。

感染予防

免疫抑制治療中は感染症にかかりやすくなるため、手洗い、うがい、マスク着用などの感染予防策を心がけます。発熱や風邪症状がある場合は早めに受診することが大切です。

生活習慣

規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事を心がけます。過度のストレスは病状を悪化させる可能性があるため、ストレス管理も重要です。

当院での対応

専門的な診断

当院は、自己免疫性肝炎が疑われる患者さんに対して、詳細な血液検査により各種自己抗体や免疫グロブリンを測定し、正確な診断を行います。

必要に応じて肝生検の手配も行い、組織学的診断により確実な診断を確定いたします。他の肝疾患との鑑別も慎重に行います。

個別化された治療

患者さんの年齢、病状、併存疾患を総合的に評価し、最適な治療方針を決定いたします。ステロイド治療の開始量や減量スケジュール、併用薬の選択など、個々の患者さんに合わせた治療を提供いたします。

治療中は定期的な検査により効果と副作用を監視し、必要に応じて治療調整を行います。

長期管理とサポート

自己免疫性肝炎は長期間の治療と管理が必要な疾患です。定期的な診察により病状を評価し、維持療法を適切に継続いたします。

ステロイドの副作用対策や感染予防についても具体的にご指導し、患者さんが安心して治療を継続できるようサポートいたします。

まとめ

自己免疫性肝炎は免疫系の異常により起こる慢性肝疾患ですが、適切な免疫抑制治療により良好な予後が期待できます。早期診断と継続的な治療により、多くの患者さんで寛解を達成することが可能です。

原因不明の肝機能異常、慢性的な倦怠感、関節痛などの症状がある場合は、自己免疫性肝炎の可能性も考慮して当院にご相談ください。当院では、自己免疫性肝炎の診断から治療、長期管理まで総合的にサポートいたします。

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