アニサキス

アニサキスは、魚介類に寄生する線虫の一種で、生の魚や加熱不十分な魚を摂食することで人間に感染し、激しい腹痛を引き起こす食中毒の原因となります。日本では刺身や寿司を食べる文化があるため、アニサキス症の発生頻度が世界的にも高く、年間約3000件の症例が報告されています。

近年、生食文化の普及や流通技術の発達により、全国的に症例数が増加傾向にあります。適切な予防知識と早期診断により、症状の軽減と合併症の予防が可能な疾患です。

アニサキスとは

寄生虫の特徴

アニサキスは体長2-3cm、幅0.5-1mmの白色の線虫で、主にサバ、アジ、サンマ、イワシ、カツオ、サケなどの海水魚の内臓に寄生しています。魚が死亡すると内臓から筋肉部分に移動するため、刺身として食べる魚肉にも存在することがあります。

この寄生虫は本来、海洋哺乳類(クジラ、イルカ、アザラシなど)を終宿主とする生活環を持っていますが、人間が感染した場合は適切な宿主ではないため、成虫になることはできません。

感染経路

アニサキス症は、生きたアニサキス幼虫が含まれる魚介類を生または加熱不十分な状態で摂食することで感染します。刺身、寿司、しめ鯖、酢じめ、塩辛などが主な感染源となります。

感染は摂食後数時間から十数時間以内に症状が現れることが多く、アニサキスが胃壁や腸壁に侵入しようとすることで激しい腹痛が生じます。

症状について

胃アニサキス症

最も頻度が高いのが胃アニサキス症で、全体の約90%を占めます。生魚摂食後2-8時間以内に、突然の激しい上腹部痛で発症することが特徴です。痛みは持続性で、「のたうち回るような痛み」「今まで経験したことのない痛み」と表現されるほど激烈です。

吐き気、嘔吐を伴うことが多く、時に軽度の発熱がみられることもあります。症状の程度は個人差がありますが、多くの場合は救急外来を受診するほどの強い痛みとなります。

腸アニサキス症

腸アニサキス症は胃アニサキス症よりも症状の出現が遅く、摂食後十数時間から数日後に下腹部痛で発症します。腹痛は胃アニサキス症ほど激烈ではないことが多いものの、持続的な痛みが特徴です。

嘔吐、発熱、腹部膨満感を伴うことがあり、腸閉塞を来すこともあります。症状が非特異的なため、診断が困難な場合があります。

アニサキス・アレルギー

一部の患者さんでは、アニサキスに対するアレルギー反応が起こることがあります。蕁麻疹、血管浮腫、呼吸困難などのアナフィラキシー症状を呈することがあり、重篤な場合には生命に関わることもあります。

このアレルギー反応は、生きたアニサキスだけでなく、死んだアニサキスでも起こる可能性があるため、注意が必要です。

診断について

問診の重要性

アニサキス症の診断において、詳細な問診が最も重要です。症状出現前24時間以内の魚介類摂食歴、特に生魚の摂食について詳しく確認します。摂食した魚の種類、調理方法、摂食場所なども重要な情報となります。

症状の特徴(突然発症の激しい腹痛)と魚介類摂食歴の組み合わせにより、アニサキス症を強く疑うことができます。

内視鏡検査

胃アニサキス症の確定診断には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が最も有用です。胃粘膜に刺入したアニサキス虫体を直接観察でき、同時に内視鏡的摘出も可能です。

アニサキスは白色の糸状虫体として観察され、胃粘膜に頭部を刺入している様子が確認できます。摘出により症状の劇的な改善が得られることが多くあります。

その他の検査

血液検査では好酸球の増加がみられることがありますが、特異的な所見ではありません。腸アニサキス症の場合は、CT検査により腸管の浮腫や腹水の有無を確認することがあります。

アニサキス特異的IgE抗体の測定により、アニサキス・アレルギーの診断が可能ですが、一般的な検査ではありません。

治療について

内視鏡的治療

胃アニサキス症では、内視鏡下でのアニサキス摘出が最も確実で効果的な治療法です。内視鏡用鉗子を用いてアニサキス虫体を把持し、慎重に摘出します。

摘出が成功すれば症状は劇的に改善し、多くの場合は数時間以内に痛みが消失します。複数のアニサキスが存在する場合もあるため、胃内を十分に観察することが重要です。

薬物療法

腸アニサキス症や内視鏡検査が困難な場合は、薬物療法が検討されます。ただし、アニサキスに対する特効薬は存在しないため、対症療法が中心となります。

痛みに対しては鎮痛薬、胃粘膜保護を目的として胃酸分泌抑制薬などが使用されます。一部でアルベンダゾールなどの駆虫薬が使用されることもありますが、効果は限定的です。

保存的治療

軽症例では、アニサキスが自然に排出されるまで症状に対する対症療法のみで経過観察することもあります。人間はアニサキスの適切な宿主ではないため、多くの場合は数日以内に虫体は死滅し、症状も改善します。

ただし、症状が強い場合や合併症のリスクがある場合は、積極的な治療が必要です。

予防について

加熱調理

アニサキスは熱に弱く、60度で1分間、70度以上の加熱により死滅します。魚介類を十分に加熱調理することで、確実に感染を予防できます。

煮る、焼く、揚げるなどの調理法により、アニサキスを完全に死滅させることができます。中心部まで十分に加熱することが重要です。

冷凍処理

アニサキスは冷凍にも弱く、-20度で24時間以上冷凍することで死滅します。家庭用冷凍庫でも48時間以上冷凍すれば効果的です。

冷凍魚を使用した刺身や寿司では、アニサキス感染のリスクは大幅に軽減されます。ただし、冷凍により魚の食感や味が変化することがあります。

魚の処理方法

新鮮な魚を購入し、速やかに内臓を除去することが重要です。魚が死亡すると内臓から筋肉部分にアニサキスが移動するため、早期の内臓除去により感染リスクを軽減できます。

目視でアニサキスを確認し、発見した場合は除去することも有効です。ただし、小さなアニサキスは見落とすことがあるため、完全な予防法ではありません。

酢や塩、わさびの効果

酢じめや塩蔵、わさび、醤油などの調味料では、アニサキスを完全に死滅させることはできません。これらの処理に頼らず、加熱や冷凍による確実な処理が推奨されます。

当院での対応

迅速な診断

当院では、アニサキス症が疑われる患者さんに対して、詳細な問診により迅速な診断を行います。魚介類摂食歴と特徴的な症状から、アニサキス症の可能性を適切に評価いたします。

必要に応じて内視鏡検査を実施し、アニサキス虫体の確認と摘出を行います。緊急性が高い場合は、速やかに専門医療機関への紹介も行います。

治療とサポート

内視鏡による虫体摘出が可能な場合は適切に実施し、患者さんの苦痛を速やかに軽減いたします。症状に応じた薬物療法も併用し、総合的な治療を提供いたします。

治療後の経過観察も重要で、合併症の有無や症状の改善状況を確認いたします。

予防指導

患者さんとご家族に対して、アニサキス症の予防方法について詳しくご説明いたします。魚介類の適切な処理方法、加熱調理の重要性、冷凍処理の効果などについて、実践的なアドバイスを提供いたします。

再発防止のための具体的な対策についても、患者さんの生活スタイルに合わせてご提案いたします。

まとめ

アニサキス症は生魚摂食により感染する食中毒で、激しい腹痛を引き起こします。適切な予防により感染を防ぐことができ、発症した場合も早期診断と治療により症状の改善が期待できます。生魚摂食後の激しい腹痛がある場合は、アニサキス症の可能性を考慮して早めに当院にご相談ください。当院では、アニサキス症の診断から治療、予防指導まで総合的にサポートいたします。安全に魚介類を楽しむための適切な知識を提供し、患者さんの健康維持に努めます。

お気軽にお問い合わせください

  • 平日 8時45分~12時00分, 14時30分~18時00分
  • ※木曜 9時30分~12時00分, 14時30分~17時30分
  • ※土曜 8時45分~12時00分