アルコール性肝炎

アルコール性肝炎は、長期間の過度な飲酒により肝臓に炎症が起こる疾患で、アルコール性肝疾患の一段階として位置づけられます。日本人男性の約5%、女性の約1%がアルコール依存症と推定されており、その多くにアルコール性肝疾患がみられます。

初期は脂肪肝から始まり、肝炎、肝硬変、肝癌へと進行する可能性があります。特に急性アルコール性肝炎は生命に関わることもある重篤な状態です。しかし、早期発見と禁酒により肝機能の改善が期待でき、進行を止めることが可能な疾患でもあります。

アルコール性肝炎とは

疾患の特徴

アルコール性肝炎は、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが肝細胞に直接的な毒性を示すことで発症します。長期間の飲酒により肝細胞が障害され、炎症、壊死、線維化が進行します。

病態は慢性アルコール性肝炎と急性アルコール性肝炎に分けられます。慢性型は徐々に進行し、急性型は大量飲酒や慢性肝疾患の急性増悪として現れ、重篤な症状を呈することがあります。

アルコール性肝疾患の進展

アルコール性肝疾患は、脂肪肝→肝炎→肝硬変→肝癌という段階で進行します。初期の脂肪肝の段階では可逆性ですが、肝炎が進行すると線維化が始まり、肝硬変に至ると不可逆的な変化となります。

すべての患者さんが同じ経過をたどるわけではなく、個人差が大きいことも特徴です。遺伝的要因、性別、栄養状態、他の肝疾患の合併などが進行に影響します。

原因と危険因子について

アルコール摂取量と期間

アルコール性肝炎の発症には、摂取量と期間の両方が重要です。一般的に、男性では1日80g以上、女性では60g以上のアルコールを10年以上継続摂取すると肝障害のリスクが高まるとされています。

日本酒1合(180ml)には約22gのアルコールが含まれており、毎日3-4合以上の飲酒を続けると危険域に達します。ビールなら大瓶3本、ウイスキーならダブル3杯程度に相当します。

性差と体質

女性は男性よりも少ないアルコール量で肝障害を起こしやすいことが知られています。これは体重あたりの水分量が少ないことや、アルコール代謝酵素の活性が低いことが関係しています。

また、アルコール代謝酵素(ALDH2)の遺伝的多型により、アジア人では約40%の人でアルコール代謝能力が低く、これらの人では少量のアルコールでも肝障害を起こしやすくなります。

その他の危険因子

栄養不良、特にタンパク質不足は肝障害を促進します。また、C型肝炎ウイルス感染者では、少量の飲酒でも肝硬変への進行が早まることが知られています。

肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も、アルコール性肝疾患の進行を促進する要因となります。

症状について

慢性アルコール性肝炎

慢性アルコール性肝炎では、初期は無症状のことが多く、健康診断での肝機能異常で発見されることがほとんどです。進行すると、全身倦怠感、食欲不振、腹部膨満感などの非特異的な症状が現れます。

肝臓の腫大により右上腹部の不快感や鈍痛を感じることもあります。また、手のひらが赤くなる手掌紅斑や、胸部や肩に赤い斑点が現れるクモ状血管腫などの肝疾患に特徴的な皮膚症状がみられることもあります。

急性アルコール性肝炎

急性アルコール性肝炎では、黄疸、発熱、腹痛、嘔吐などの急性症状が現れます。黄疸は皮膚や白眼が黄色くなる症状で、ビリルビン値の上昇により起こります。

重症例では、腹水、浮腫、意識障害などの肝不全症状が出現し、生命に関わる状態となることがあります。このような場合は緊急入院による集中治療が必要です。

合併症状

アルコール依存症に伴う栄養不良により、末梢神経障害、筋力低下、記憶障害などの神経症状が現れることがあります。また、食道静脈瘤破裂による吐血・下血、肝性脳症による意識障害なども重篤な合併症です。

膵炎、胃炎、食道炎などの消化器疾患を合併することも多く、総合的な管理が必要になります。

診断について

血液検査

アルコール性肝炎の診断には、肝機能検査が重要です。AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇がみられ、特にAST/ALT比が2以上になることが特徴的です。これは心筋や骨格筋にも存在するASTがアルコールにより特に上昇するためです。

γ-GTP(ガンマ・ジーティーピー)の著明な上昇も診断の手がかりとなります。γ-GTPはアルコール摂取により誘導される酵素で、飲酒習慣のある人では特に高値を示します。

アルコール摂取歴

診断には詳細な飲酒歴の聴取が不可欠です。1日の飲酒量、飲酒期間、飲酒パターンなどを正確に把握することで、アルコール性肝疾患の可能性を評価します。

患者さんは飲酒量を過少申告する傾向があるため、家族からの情報収集も重要です。また、CAGE質問票(アルコール依存症スクリーニングテスト)などのアルコール依存症スクリーニングツールも診断に有用です。

画像検査

腹部超音波検査では、脂肪肝による肝臓の高エコー化、肝臓の腫大、表面の不整などが観察されます。進行例では肝硬変に特徴的な形態変化がみられます。

CT検査やMRI検査により、より詳細な肝臓の評価が可能です。また、食道静脈瘤や腹水の有無も評価できます。

肝生検

確定診断には肝生検が最も確実ですが、侵襲的な検査のため、臨床症状と検査所見から総合的に診断されることが多くあります。生検では、肝細胞の風船様変性、マロリー小体、好中球浸潤などの特徴的な所見がみられます。

治療について

禁酒療法

アルコール性肝炎の最も重要で根本的な治療は完全禁酒です。禁酒により肝機能の改善が期待でき、進行を止めることが可能です。脂肪肝の段階であれば、禁酒により完全に正常化することもあります。

禁酒は患者さんにとって非常に困難な課題であり、家族の協力や専門医療機関との連携が重要です。アルコール依存症の治療も併せて行う必要があります。

栄養療法

アルコール依存症患者では栄養不良が高頻度にみられるため、適切な栄養療法が重要です。十分なカロリー摂取とともに、タンパク質、ビタミンB群、葉酸などの補給を行います。

特にビタミンB1(チアミン)不足による神経障害を防ぐため、積極的な補充療法を行います。また、亜鉛不足も味覚障害や創傷治癒遅延の原因となるため注意が必要です。

薬物療法

肝庇護薬として、ウルソデオキシコール酸(ウルソ)が使用されます。この薬剤は胆汁酸の組成を改善し、肝細胞保護作用があります。

重症の急性アルコール性肝炎では、ステロイド薬が使用されることもありますが、感染症のリスクもあるため慎重な適応判断が必要です。

合併症の治療

食道静脈瘤がある場合は、内視鏡的結紮術や硬化療法により出血予防を行います。腹水に対しては利尿薬の使用や、必要に応じて腹水穿刺を行います。

肝性脳症に対してはアンモニア産生を抑制する薬剤を使用し、便秘の改善も重要です。

予後について

禁酒による改善

完全禁酒により、多くの場合肝機能の改善がみられます。脂肪肝の段階では数か月で正常化することもあり、肝炎の段階でも進行を止めることができます。

ただし、肝硬変に進行した場合は不可逆的な変化のため、完全な回復は困難です。それでも禁酒により肝癌の発症リスクを減らし、予後の改善が期待できます。

継続飲酒のリスク

飲酒を継続した場合、肝疾患は確実に進行し、5年生存率は約50%と報告されています。肝硬変に進行すると食道静脈瘤破裂や肝癌のリスクが高まり、生命予後は不良となります。

予防について

適量飲酒を心がけることが最も重要な予防策です。厚生労働省が推奨する適量は、男性で1日平均20g、女性で10g程度のアルコールです。

休肝日を設けることも大切で、週に2日以上の禁酒日を作ることが推奨されます。また、空腹時の飲酒を避け、食事と一緒に飲酒することで肝臓への負担を軽減できます。

当院での対応

総合的な診断と評価

当院では、アルコール性肝炎が疑われる患者さんに対して、詳細な飲酒歴の聴取と包括的な検査により正確な診断を行います。肝機能検査、画像検査を組み合わせて病状を評価いたします。

患者さんの状態を総合的に判断し、治療の緊急度や入院の必要性についても適切に評価いたします。

禁酒支援と治療

禁酒の重要性について患者さんとご家族に詳しく説明し、禁酒達成に向けたサポートを行います。必要に応じてアルコール依存症の専門医療機関との連携も行います。

薬物療法や栄養療法も個々の患者さんの状態に応じて適切に実施し、肝機能の改善を図ります。

継続的な管理

禁酒継続のサポートと定期的な肝機能検査により、長期的な管理を行います。肝硬変への進行や肝癌の早期発見にも努め、患者さんの予後改善を目指します。

また、他の生活習慣病の管理も併せて行い、総合的な健康管理を提供いたします。

まとめ

アルコール性肝炎は完全禁酒により進行を止めることができる疾患です。早期発見と適切な治療により肝機能の改善が期待できますが、最も重要なのは患者さん自身の禁酒への取り組みです。肝機能異常を指摘された方、飲酒習慣について心配な方、禁酒をお考えの方は、当院にご相談ください。当院では、アルコール性肝炎の診断から治療、禁酒支援まで総合的にサポートいたします。

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