急性膵炎

急性膵炎は、膵臓に急激で激しい炎症が起こる疾患で、突然の激烈な腹痛を主症状とします。膵臓から分泌される消化酵素が何らかの原因で膵臓自体を消化してしまうことで発症し、軽症から生命に関わる重症まで様々な程度があります。アルコール多飲と胆石が主要な原因で、適切な診断と治療により多くの場合は改善しますが、重症例では集中治療が必要になることもあります。

男性では40-50歳代、女性では60-70歳代に多くみられ、近年患者数は増加傾向にあります。早期診断と適切な初期治療により重症化を防ぎ、良好な経過が期待できる一方で、診断や治療が遅れると重篤な合併症を引き起こす可能性がある重要な疾患です。

急性膵炎とは

疾患の特徴

急性膵炎は、膵臓の腺房細胞から分泌される消化酵素(トリプシン、リパーゼ、アミラーゼなど)が、通常は十二指腸で活性化されるべきところが、膵臓内で異常に活性化されることで発症します。これにより膵組織の自己消化が起こり、炎症、浮腫、出血、壊死などの病変が生じます。

炎症の程度により、軽症の浮腫性膵炎から重症の壊死性膵炎まで様々な病態を示します。重症例では膵臓だけでなく、周囲臓器や全身に影響が及び、多臓器不全を来すこともあります。

病因と発症機序

膵炎の発症には複数の機序が関与しています。胆石による膵管出口の閉塞、アルコールによる膵液の粘稠度上昇と膵管内圧の上昇、膵酵素の早期活性化などが主な原因となります。

これらの要因により膵液の流出が障害されると、膵管内圧が上昇し、膵酵素が膵組織内に漏出して自己消化を引き起こします。

原因について

アルコール性

日本では急性膵炎の約40-50%がアルコールに起因します。長期間の大量飲酒により膵液の性状が変化し、膵管内に蛋白栓が形成されて膵液の流出が障害されます。

必ずしも慢性的な大量飲酒者でなくても、一過性の大量飲酒(binge drinking)により急性膵炎を発症することもあります。

胆石性

胆石が総胆管に落下し、膵管出口部(Vater乳頭)で嵌頓することで膵液の流出が障害され、急性膵炎が発症します。日本では急性膵炎の約20-30%が胆石に起因します。

特に小さな胆石(5mm以下)は膵管出口部に嵌頓しやすく、急性膵炎のリスクが高いとされています。

その他の原因

薬剤性(ステロイド、利尿薬、免疫抑制薬など)、高脂血症(特に高トリグリセライド血症)、外傷、ERCP後、自己免疫性膵炎の急性増悪、膵癌による膵管閉塞などがあります。

また、原因が特定できない特発性急性膵炎も約10-20%存在します。

症状について

腹痛

急性膵炎の最も特徴的な症状は、突然発症する激烈な上腹部痛です。痛みは持続性で、「今まで経験したことのない痛み」と表現されることが多く、患者さんは前屈位を取ることが多くなります。

痛みは上腹部から背部に貫通するように放散し、左肩や左腰部にも及ぶことがあります。体位を変えても痛みは軽減せず、鎮痛薬でも改善しにくいのが特徴です。

消化器症状

激しい腹痛に伴い、吐き気や嘔吐が高頻度にみられます。嘔吐は胃内容物から始まり、進行すると胆汁性嘔吐となることもあります。

腹部膨満、腸蠕動音の減弱やイレウス症状を呈することもあり、これらは膵炎による後腹膜の炎症が腸管に及ぶことで生じます。

全身症状

発熱は急性膵炎の重要な症状で、多くの場合38-39度の発熱がみられます。炎症の程度や感染の合併により、より高熱となることもあります。

重症例では、頻脈、血圧低下、呼吸困難、意識障害などのショック症状が出現し、生命に関わる状態となることがあります。

皮膚症状

重症例では、腹壁や側腹部に青紫色の斑状出血(Cullen徴候、Grey-Turner徴候)がみられることがあります。これらは後腹膜出血を示唆する重要な所見です。

診断について

臨床症状

急性膵炎の診断は、特徴的な臨床症状、血液検査、画像検査を組み合わせて行われます。激烈な上腹部痛と背部痛、嘔吐、発熱などの症状は診断の重要な手がかりとなります。

血液検査

膵酵素の上昇が診断の重要な指標となります。血清アミラーゼは発症後6-12時間で上昇し、24-48時間でピークに達します。リパーゼはアミラーゼより特異性が高く、上昇が持続します。

炎症反応として白血球数増加、CRP上昇がみられ、重症例では血小板減少、凝固異常、腎機能障害、肝機能障害なども認められます。

画像検査

造影CT検査は急性膵炎の診断と重症度評価において最も重要な検査です。膵臓の腫大、周囲脂肪織の炎症、膵壊死の有無、液体貯留などを詳細に評価できます。

腹部超音波検査では膵臓の腫大や胆石の有無を確認できますが、腸管ガスにより観察が困難な場合もあります。

重症度評価

急性膵炎の重症度評価には、日本急性膵炎学会の重症度判定基準が用いられます。臨床症状、検査所見、CT所見を総合的に評価し、軽症、中等症、重症に分類します。

この評価により治療方針が決定され、重症例では集中治療室での管理が必要になります。

治療について

保存的治療

急性膵炎の基本的な治療は保存的治療です。絶食により膵臓を安静に保ち、十分な輸液により循環動態を維持します。通常、発症から数日間は絶食とし、症状の改善とともに段階的に食事を再開します。

疼痛管理も重要で、適切な鎮痛薬を使用して患者さんの苦痛を軽減します。非ステロイド性抗炎症薬は腎機能への影響を考慮して慎重に使用されます。

感染予防と治療

重症急性膵炎では感染性合併症のリスクが高いため、予防的抗生物質の投与が検討されます。また、感染性膵壊死を合併した場合は、適切な抗生物質治療と必要に応じたドレナージが行われます。

胆石性膵炎の治療

胆石性急性膵炎では、原因である胆石の除去が重要です。ERCPによる胆石除去術や、回復期における胆嚢摘出術により再発を予防します。

重症例では緊急的なERCPによる胆道ドレナージが必要になることもあります。

合併症の管理

急性膵炎の合併症として、膵膿瘍、膵仮性嚢胞、胆管炎、消化管出血などがあります。これらの合併症に対しては、内視鏡的治療、経皮的ドレナージ、外科的治療などが適宜選択されます。

重症例では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性腎不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの全身性合併症を来すことがあり、集中治療が必要です。

予防について

アルコール制限

アルコール性膵炎の予防には、適量飲酒または禁酒が最も重要です。急性膵炎の既往がある方は、再発予防のため禁酒が強く推奨されます。

胆石の管理

胆石症の患者さんでは、症状がある場合は適切な時期での胆嚢摘出術により急性膵炎の発症を予防できます。特に小さな胆石を多数認める場合は注意が必要です。

生活習慣の改善

高脂血症の管理、適正体重の維持、規則正しい食事なども急性膵炎の予防に重要です。

当院での対応

迅速な診断

当院では、急性膵炎が疑われる患者さんに対して、迅速な血液検査により膵酵素や炎症反応を確認し、症状と合わせて診断を行います。

CT検査の手配も速やかに行い、膵臓の状態を詳細に評価いたします。重症度の判定も適切に行い、治療方針を決定いたします。

初期治療と管理

軽症から中等症の急性膵炎では、外来での初期治療も可能な場合があります。適切な鎮痛薬の投与、輸液療法、絶食指導などにより症状の改善を図ります。

患者さんの症状や重症度に応じて、入院治療の必要性を適切に判断し、必要な場合は専門医療機関への紹介を迅速に行います。

原因検索と再発予防

急性膵炎の原因検索を詳細に行い、胆石性の場合は適切な治療方針をご提案いたします。アルコール性の場合は禁酒指導を徹底し、必要に応じて専門機関との連携も行います。

再発予防のための生活指導も詳しく行い、患者さんが安心して日常生活を送れるようサポートいたします。

継続的な経過観察

急性膵炎の回復期には、膵機能の評価や合併症の有無を確認するため、定期的な経過観察を行います。慢性膵炎への移行や糖尿病の発症についても注意深く監視いたします。

まとめ

急性膵炎は激烈な腹痛を主症状とする疾患で、適切な初期治療により多くの場合は改善しますが、重症例では生命に関わることもあります。アルコールと胆石が主な原因であり、これらの管理により予防が可能です。突然の激しい上腹部痛、特に背部に貫通するような痛みがある場合は、急性膵炎の可能性を考慮して速やかに当院にご相談ください。当院では、急性膵炎の迅速な診断から適切な初期治療、専門医療機関との連携まで総合的にサポートいたします。

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