アカラシアは、食道と胃の境界部にある下部食道括約筋が十分に弛緩しないことで、食べ物や飲み物が胃に流れ込みにくくなる疾患です。比較的稀な病気ですが、適切な診断と治療により症状の改善が期待できる重要な疾患です。
「飲み込みにくい」「胸がつかえる」といった症状が特徴的で、進行すると栄養状態の悪化や誤嚥性肺炎などの合併症を引き起こすこともあります。早期診断により適切な治療を行うことで、患者さんの生活の質を大幅に改善することができます。
アカラシアとは
疾患の特徴
アカラシアは、食道の蠕動運動の障害と下部食道括約筋の弛緩不全を特徴とする機能性食道疾患です。通常、食べ物を飲み込むと食道の筋肉が協調的に収縮し、下部食道括約筋が弛緩して食べ物を胃に送り込みます。
アカラシアでは、この正常な機能が障害されるため、食べ物が食道内に停滞し、様々な症状を引き起こします。病気の進行により食道が拡張し、さらに症状が悪化することもあります。
発症頻度と年齢分布
アカラシアは比較的稀な疾患で、年間発症率は10万人あたり1人程度とされています。あらゆる年齢層に発症しますが、20代から40代の比較的若い成人と60代以降の高齢者に二峰性の発症ピークがみられます。
男女差はほとんどなく、遺伝性はないとされています。ただし、家族内発症の報告もあり、遺伝的素因の関与も完全には否定されていません。
原因について
神経機能の障害
アカラシアの原因は完全には解明されていませんが、食道壁内の神経叢(アウエルバッハ神経叢)の変性や炎症が主な病因と考えられています。この神経叢が障害されることで、食道の正常な蠕動運動と下部食道括約筋の弛緩が阻害されます。
神経の変性により、食道の筋肉を制御する指令が正常に伝わらなくなり、食べ物を胃に送る機能が失われます。炎症の原因として、ウイルス感染や自己免疫反応の関与が推測されていますが、明確な証拠は得られていません。
分類と病型
アカラシアは食道内圧検査の所見により、3つの病型に分類されます。タイプIは食道蠕動の完全消失、タイプIIは食道内の圧迫現象、タイプIIIは痙攣性の収縮を特徴とします。
病型により治療反応性や予後が異なるため、正確な診断が重要です。特にタイプIIは治療反応が良好で、タイプIIIは治療が困難な場合があります。
症状について
主要症状
アカラシアの最も典型的な症状は嚥下困難です。初期には固形物の飲み込みにくさから始まり、進行すると液体も飲み込みにくくなります。この症状は数か月から数年かけて徐々に進行することが特徴です。
胸部のつかえ感や胸痛も重要な症状で、特に食事中や食後に現れやすくなります。食べ物が食道内に停滞することで生じる症状で、患者さんにとって非常に不快な感覚となります。
進行に伴う症状
病気が進行すると、食道内に停滞した食べ物が逆流し、嘔吐や胸やけを起こすことがあります。特に夜間の逆流は誤嚥の原因となり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあります。
食事摂取量の減少により体重減少が起こり、進行例では著明な栄養不良状態となることもあります。また、食道内の慢性的な炎症により、稀ですが食道癌のリスクが増加することも知られています。
日常生活への影響
症状により食事時間が長くなったり、外食を避けるようになったりと、患者さんの生活の質が大きく低下します。また、突然の嘔吐や胸痛により、社会生活に支障をきたすこともあります。
精神的なストレスも大きく、食事に対する不安や恐怖感を抱く患者さんも少なくありません。適切な治療により、これらの症状や生活の質の改善が期待できます。
診断について
問診と症状の評価
アカラシアの診断は、特徴的な症状の詳細な聞き取りから始まります。嚥下困難の程度や経過、どのような食べ物で症状が強いか、体重減少の有無などを詳しく確認します。
症状の進行パターンや家族歴、既往歴なども重要な情報で、他の疾患との鑑別診断に役立ちます。特に食道癌や他の食道疾患との区別が重要です。
画像検査
バリウム食道造影検査は、アカラシアの診断に非常に有用な検査です。食道の拡張、下部食道の「鳥のくちばし様」狭窄、バリウムの通過障害などの特徴的な所見を確認できます。
CT検査では食道の拡張や壁肥厚、周囲臓器との関係を評価できます。また、食道癌など他の疾患の除外にも有用です。
内視鏡検査と機能検査
上部消化管内視鏡検査により、食道粘膜の状態や下部食道括約筋の狭窄の程度を直接観察できます。また、食道癌の除外診断としても重要な検査です。
食道内圧検査(マノメトリー)は、アカラシアの確定診断と病型分類に必須の検査です。食道の蠕動運動と下部食道括約筋の弛緩機能を詳細に評価できます。
治療について
薬物療法

軽症例では、カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬などの薬物により下部食道括約筋の弛緩を促す治療が試みられます。しかし、効果は限定的で、根本的な治療にはなりません。
症状の改善は一時的で、病気の進行を防ぐ効果もないため、多くの場合は他の治療法が必要になります。
内視鏡的治療
ボツリヌス毒素の局所注射は、比較的安全で効果的な治療法です。内視鏡下で下部食道括約筋にボツリヌス毒素を注射し、筋肉の収縮を抑制します。効果は3-6か月程度持続しますが、繰り返し治療が必要です。
経口内視鏡的筋切開術(POEM)は、近年注目されている低侵襲治療法です。内視鏡を用いて粘膜下トンネルを作成し、下部食道括約筋を切開します。高い治療効果が期待できる一方、逆流性食道炎の合併に注意が必要です。
外科的治療
腹腔鏡下筋切開術(腹腔鏡下Heller手術)は、確実性の高い治療法として広く行われています。腹腔鏡を用いて下部食道括約筋を切開し、同時に逆流防止手術も併施します。
開胸手術は、他の治療法が困難な場合や食道の高度拡張がある場合に検討されます。食道切除術が必要になることもありますが、現在では稀です。
当院での対応
初期診断と評価
当院では、アカラシアが疑われる患者さんに対して、詳細な問診と症状の評価を行います。嚥下困難や胸部症状の特徴を詳しくお聞きし、必要な検査を適切に手配いたします。
バリウム検査や内視鏡検査の結果を総合的に評価し、アカラシアの診断と病型の判定を行います。患者さんには検査結果を分かりやすく説明し、今後の治療方針についてご相談いたします。
治療選択と連携
患者さんの年齢、症状の程度、全身状態などを総合的に評価し、最適な治療法をご提案いたします。薬物療法が適応となる場合は当院で治療を行い、内視鏡的治療や外科的治療が必要な場合は専門医療機関をご紹介いたします。
治療後の経過観察も重要で、症状の改善状況や合併症の有無を定期的に確認いたします。必要に応じて追加治療や治療方針の変更も検討いたします。
生活指導とサポート
日常生活での食事の工夫について具体的にアドバイスいたします。食べ物の性状や食事方法、体位などの調整により、症状の軽減が期待できることがあります。
また、治療に対する不安や疑問にもお答えし、患者さんが安心して治療を受けられるようサポートいたします。家族の方への説明や相談にも対応いたします。
まとめ

アカラシアは稀な疾患ですが、適切な診断と治療により症状の大幅な改善が期待できます。嚥下困難や胸部のつかえ感などの症状が続く場合は、早期の医療機関受診が重要です。飲み込みにくさが続く、食事に時間がかかるようになった、体重が減少しているなどの症状がある場合は、当院にご相談ください。当院では、アカラシアの診断から治療方針の決定、専門医療機関との連携まで総合的にサポートいたします。